皆さん、アルコールを飲んだ後の口臭を改善・消臭したいと思ったら、どんな対策を講じますか?クールミント系のガムを噛んだり、コンビニなどで買えるブレスケア用タブレットを舐めたりして、手っ取り早くアルコール臭い息をマスキングする、などでしょうか?
体内に摂取したアルコールそのものが口臭となっているだけなら、その程度の対策でもなんとかなるかもしれません。ただし、アルコール臭い口臭を改善したり予防したりするのに有効な方法は、他にもあるのです。
また、注意しなくてはならないのは、お酒を飲んだ場合、体内に摂取したアルコールそのものが口臭となるだけでなく、摂取したアルコールが口臭を悪化させる原因にもなり得るということです。
そこで、このページでは、アルコールを摂取すると口臭が発生したり、悪化したりするさまざまななメカニズムから、それらの口臭を改善、消臭、予防する方法などについてご説明します。
コンテンツ
なぜアルコールを摂取すると口臭が発生するのか?
1 摂取したアルコールそのものが、口臭となって体外に放出される場合
私たちがお酒を飲む、つまりアルコールを摂取すると、その主成分であるエタノールは肝臓へと運ばれたところで分解され、最終的には「水」や「二酸化炭素」になって体外に排出されます。そして、この分解の過程で、お酒を飲んだ際に頭痛や吐き気、全身の倦怠感の原因ともなる毒性物質である「アセトアルデヒド」が作られます。
このアセトアルデヒドはさらに分解され、酢酸という有用物質に変わります。ただし、飲み過ぎなどによってアルコールを摂取しすぎた場合には肝臓で行われる分解能力が追いつかず、アセトアルデヒドのまま体内に残留してしまいます。この残留したアセトアルデヒドが血液中に取り込まれ、その循環とともに体内を巡り、汗や皮膚呼吸によって体外に放出されるほか、呼気と混じって口臭の原因となってしまうのです。
しかも、アセトアルデヒドが放つ臭いは「生ゴミ臭」や「ネズミ臭」と呼ばれるほどの悪臭で、1971年に国民の生活環境や健康保護を目的に制定された法律である「悪臭防止法」においても、特定悪臭物質と指定されるほどヒドイものなのです。
2 摂取したアルコールが口臭を悪化させる原因となる場合
アルコールが持つ利尿作用によって体内の水分が減少すると、それに応じて唾液の分泌量も低下します。すると口腔内が乾燥して、歯周病の原因菌と言われる嫌気性菌を中心に、細菌類が大量に繁殖しやすい環境となってしまいます。そして、それら細菌類が繁殖する際に放出する「硫化水素」や「メチルメルカプタン」などのガスが口臭の原因となるのです。
硫化水素、メチルメルカプタンともに「悪臭防止法」の特定悪臭物質と指定されているほか、1968年に制定された「大気汚染防止法」の特定物質としても指定されているほどの悪臭です。ちなみに、硫化水素は「腐ったタマネギのような臭い」、またメチルメルカプタンは「腐った卵のような臭い」などと形容されるほど、キツイ臭いを放つ物質です。
このため、口腔内の乾燥によって発生する口臭も、アルコールそのものが原因となって発生するアセトアルデヒド由来のものとはまた別の次元で、強い悪臭を放つ口臭と言えるのです。
3 アルコールの過剰摂取による歯周病が原因で口臭が発生する場合
アルコールがどのようにして歯周病を進行させるのか、その機序は明確になってはいません。ただしヒトを対象にした疫学研究において、アルコール摂取の多い人ほど、歯周病の罹患率が高いことが報告されています。
出典:NIKKEI STYLE(最終閲覧日:2019.05.24)
と語る神奈川歯科大学 大学院歯学研究科 山本龍生教授が、ラットを用いて行った実験によれば、
歯周病に罹患していないラットにアルコールを過剰摂取(人で言うなら、泥酔状態に)させた場合、歯の土台部分である歯槽骨が著しくアルコールを吸収。歯槽骨の周りには活性酸素が作られ、身体全体の抗酸化能力が低下していることも判明したと言います。
また、「Journal of Periodontology」(2014年85巻1521~1528ページ)よれば、韓国における40代を中心とした男性8,645人に向けた調査では、日常的にアルコールを摂取する習慣を持つ男性は、そのような習慣を持たない人と比較して、歯周病に罹患するリスクが1,27倍高かったと報告されています。
さらに、「Journal of Periodontal Research」 (2014年50巻622~629ページ)では、ブラジルにおける1,115人の女性を対象にした調査で、1日に純アルコール9.6グラム(日本酒に換算すると1/2合以上)を摂取する人は、摂取しない人に比べて歯周病に罹患するリスクが3.8倍高いと報告されています。
そして、山本教授によれば、この歯周病がかなりの割合で口臭の原因になっており、その理由は「2 摂取したアルコールが口臭を悪化させる原因となる場合」でも触れたとおり、歯周病菌と言われる嫌気性菌が口腔内で繁殖する際、口臭のもととなる硫化水素やメチルメルカプタンなどのガスを発生させるためだと言います。
アルコールが原因で発生する口臭を改善、消臭、予防する方法
アルコールが原因で発生する口臭を防ぐには、1「お酒を飲む前」、2「お酒を飲んでいる最中」、3「お酒を飲んだ後」の3段階それぞれにおいて、講じると良い対策があります。
1 お酒を飲む前の対策
仕事の打ち上げや友人同士の飲み会、女子会などに参加する場合は、お酒を飲む前にあらかじめ牛乳やリンゴジュース(100%果汁のもの)を飲んでおく。
この場合、リンゴは生のリンゴを食べても構いません。これらの飲み物や食べ物が持つ働きが、アルコールの臭い成分を包み込み、外部に放出しにくくする効果が期待できると言われています。
また、リンゴに含まれるポリフェノール成分には、口臭の原因となるメチルメルカプタンガスの働きを抑制する作用があります。
2 お酒を飲んでいる最中の対策
口臭の原因となるアセトアルデヒドを分解してくれる働きを持つ食べ物を、酒のつまみとして選んで食べるようにする
例として、枝豆、豆腐などの大豆類のほか、シジミ、カキ、アサリなどの貝類、また、ゴマなどが挙げられます。なお、これらの食べ物とは逆に、ニンニクやニラなど、口臭の原因となる強い香りを持つ食べ物は控えましょう。
氷を口に含む
口の中で溶けた氷が口腔内を潤すと同時に、口腔内の温度を下げることで細菌類が活性化するのを抑制します。これにより、細菌類が繁殖する際に放出する口臭の原因となるガスの発生も抑えることができます。
飲食店で氷だけでの注文がしづらい場合には、アルコールの合間にソフトドリンクなどを注文し、その氷を食べると良いでしょう。
銀製のスプーンを舐める
ちょっと風変わりな方法になりますが、お酒を飲んでいる飲食店に銀製のスプーンがある場合、(そしてなおかつ、状況が許すなら)それを舐めてみましょう。
口臭を発生させる原因となるガスである硫化水素が、銀と化学反応を起こすことで硫化銀に変わり、口臭防止の効果が期待できると言われています。
3 お酒を飲んだ後の対策
最後の締めとして、緑茶を飲む
緑茶に含まれるポリフェノールの一種であるカテキンには、消臭効果があります。ですから、お酒を飲んだ後の最後の締めとして、緑茶を飲むと口臭の抑制に効果があるとされています。どうしてもお酒で締めたいという場合には、せめて緑茶ハイボールを選ぶなど、緑茶の含まれるアルコールにすると良いかもしれません。
実際、茶カテキンをはじめとする緑茶成分の口臭抑制効果については、
茶カテキン類の口臭抑制効果とチューインガムヘの応用より抜粋
カテキン類は,口臭原因物質として注目されているCH3SHに対し,優れた消臭作用とその産生を抑制する作用を持つものと推定された.また,カテキン類を添加したチューインガムは,口臭抑制の目的で効果的であると考えられた.
出典:日本食品工業学会誌(最終閲覧日;2019.05.29)
チ ュ ー イ ン ガ ム の 口 臭 抑 制 効 果Gas Chromatographに よ る判 定 (第3報)
―茶 抽 出物 配 合 チ ューイ ンガム の評価―より抜粋要旨: 緑茶抽出物, 紅茶抽出物, 茶カテキン混合物, 銅クロロフィル, 銅クロロフィリンナトリウムの5種の物質は唾液を用いた実験により,いずれも優れた悪臭抑制効果を示した。
また我々は別途, 口臭を除去する素材の探索研究の中で, 今までに緑茶フラボノイド, 茶 カテキン等にCH3SHに対して優れた臭効果を見いだし報告した。また最近,茶カテキンによる口臭および歯垢の抑制効果が報告されている。
(注)メチルメルカプタン(CH3SH)
出典:京歯 科大 学学会 第253回 総会 (1994年11月5, 6日) におい て発表
(最終閲覧日:2019.06.23)
などの研究報告がされており、「茶カテキン」や「緑茶フラボノイド」など、緑茶が持つ口臭抑制効果が認められています。
キシリトール入りのガムを噛む
これは焼肉を食べた後に、クールミント系のガムを噛むのと同じ原理と言えます。ただし、ここではぜひ、キシリトール入りのガムを選びましょう。ガムの香りがアルコールの匂いをマスキングするだけでなく、キシリトール成分の働きが唾液の分泌を促してくれます。唾液によって口腔内が潤えば歯周病の原因菌が繁殖しにくくなると同時に、口臭のもととなるガスの発生を抑制することができます。
また、たとえ味がしなくなった後のガムでも口腔内で転がすだけで唾液の分泌を促すことができ、口臭防止に効果を発揮します。
歯を磨く
先に触れた山本教授いわく、
歯周病の予防には歯磨き(ブラッシング)に勝るものはありません。ブラッシングに最適な時間帯というものはありませんので、朝、お昼、夜などに時間をかけてしっかりとブラッシングをすることが重要です。
出典:NIKKEI STYLE(最終閲覧日:2019.05.24)
とのこと。ですから、時間や状況が許せば、アルコール摂取後に歯を磨くことがオススメです。
ただし、ただやみくもに歯磨きをすればそれで良い、というわけにはいきません。正しく丁寧な歯磨きこそが、口臭ケア対策には重要です。
マウスウォッシュでうがいをする
飲み会の後、歯磨きなどの時間を要する口腔ケアが難しい場合は、マウスウォッシュを用いた簡単ケアが便利です。化粧室に立った際などに、マウスウォッシュでササっとうがいをするようにしましょう。
口臭ケアグッズを活用する
アルコールを摂取した後はもちろん、口臭ケアは日々の積み重ねが大切です。口臭ケアグッズは、お口に吹きかけるスプレー式のものや簡単に飲めるサプリメントのほか、おやつ感覚で食べられるゼリータイプのものなど各種さまざま。ご自身の生活スタイルやお好みに応じて選び、自分に合ったものを日常生活の中に組み入れて活用すると良いでしょう。
最後に
アルコールが原因で起こる口臭には、アルコールそのものが原因となるもののほか、アルコールの過剰摂取が引き金となり、口腔内が乾燥して口臭の原因となる細菌が繁殖しやすくなったり、歯周病に罹患することによって起こるものなど、大きく分けて2種類あることをおわかりいただけたでしょうか?
飲み会や仕事の打ち上げなど、アルコールを介して人とのコミュニケーションを図ることは、円滑な人間関係を築くために時として有効なものですよね?ただし、その際に摂取したアルコールがもとで口臭を発生させ、周囲の人たちの迷惑となるスメルハラスメントとなってしまっては元も子もありません。
飲酒前、飲酒中、飲酒後というそれぞれの段階における口臭ケアに取り組むことで、アルコールが原因で発生する口臭を改善・消臭・予防するよう心がけましょう。
また、
歯肉の状況4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合は、高齢になるにつれ増加しており、年次推移を見ると、今回調査ではほぼ全ての年代で高値を示した。 歯肉出血を有する者の割合は、15歳以上の年齢階級で30%を超え、30歳以上55歳未満で40%を超える。
(最終閲覧日:2019.05.24)
という記録もあり、「15歳以上」というかなり若い年齢層から、すでに歯周病のリスクがあることが示されています。
この点からしても、口臭の大きな原因の一つとなる歯周病の罹患リスクを下げるためには、過度なアルコール摂取を避けると同時に、若いうちから歯周病対策を行うことを心がけるのが得策と言えるでしょう。